母平均の差の検定(対応のない2標本)

[定理] (正規分布の再生性, 教科書 p86 または授業の定理 7.2)
$X, Y$ をそれぞれ正規分布 $N(\mu_1, \sigma_1^2), N(\mu_2, \sigma_2^2)$ に従う独立な確率変数とすると、 $X+Y$ は $N(\mu_1 + \mu_2, \sigma_1^2 + \sigma_2^2)$ に従う。

[1] ふたつの正規母集団 $N(\mu_A, \sigma_A^2), N(\mu_B, \sigma_B^2)$ を考える。 $N(\mu_A, \sigma_A^2)$ からサイズ $n_A$ の標本 $X_1, \dots, X_{n_A}$ をとり、 $N(\mu_B, \sigma_B^2)$ からサイズ $n_B$ の標本 $Y_1, \dots, Y_{n_B}$ をとる。 このとき、標本平均の差 $\overline{X} - \overline{Y}$ がどの分布に従うかを答えよ。  

$\overline{X} \sim N \left( \mu_A, \frac{\sigma_A^2}{n_A} \right)$, $\overline{Y} \sim N \left( \mu_B, \frac{\sigma_B^2}{n_B} \right)$ であるから、 正規分布の再生性より \[ \overline{X} - \overline{Y} \, \sim \, N \left( \mu_A - \mu_B, \, \frac{\sigma_A^2}{n_A} + \frac{\sigma_B^2}{n_B} \right) \] である。

[2] 人の生徒からなるA組と、 人の生徒からなるB組に対して試験を実施したところ、それぞれの平均点は、 点、 点であった。 各組の得点は、それぞれ正規分布 , に従う母集団から独立に抽出された標本であると仮定する。 両組の平均点に差があると判断してよいか、有意水準 $5\%$ で検定せよ。  

帰無仮説 $H_0$ と対立仮説 $H_1$ をそれぞれ次のように設定する:
  $H_0: \mu_A = \mu_B$
  $H_1: \mu_A \neq \mu_B$
A組とB組の標本平均をそれぞれ $\overline{X}, \overline{Y}$ とすると、[1]より は標準正規分布 $N(0,1)$ に従う。
有意水準 $5\%$ より、棄却域は $|z| > 1.96$ である。
帰無仮説 $H_0$ のもとで実現値は となり、

[Tips] 母平均の差の検定は、教育・医療・心理学・ビジネスなどをはじめ、農学・工学・社会科学など、非常に多くの分野で用いられている。 具体的な話題としては、指導法の違いによる学力への影響、治療法の効果比較、異なる報酬条件下における被験者の課題成績の比較、広告手法の違いによる購買行動の変化などが挙げられる。 2つの集団の平均値に違いがあるかを調べることは、分野を問わず実践的かつ関心の高い課題であるといえる。
 本問題では、状況を単純化するために母分散既知としたが、より実践的な場面では母分散は通常未知である。 そのような場合には Welch の検定など、別の方法によって母平均の差を検定することになるが、この段階になるともはや手計算や電卓では対応が難しく、PCや統計ソフトを使った解析が一般的となる。